災害と地域社会 山下祐介氏『東北発の震災論』

 日本は地震大国だと言われます。1月1日に石川県能登地方で地震が起こり、輪島、珠洲などの地域で大被害が起こり、一月半が経ちました。家や家族を失った多くの人が未だ不便な避難所生活を余儀なくされています。政府や自治体の支援も十分ではなく、これが自分の住んでいる場所だったらと思うと恐怖に駆られます。この能登地震と関連して思い出されるのが東日本大震災です。

 

山下祐介氏『東北発の震災論ー周辺から広域システムを考える』ちくま新書 2013年

 

山下祐介氏『東北発の震災論』

 

 

 本書は単に被害の広大さを訴えるだけでなく、その背後にあるシステムを問題にしています。東日本大震災の被害を大きくしたのは津波が大きな要因ですが、中央のために周辺がリスクを負い、中心から地方に利益を還流させる「広域システム」が問題だと指摘しています。その象徴的な存在がまさに福島原発の事故です。このシステムから抜け出し、地域がいかに自律的に動くべきかを解いたのが本書です。

 

 筆者は震災直後の2年間、当時在職の大阪府から、地方自治法による職員派遣で岩手県沿岸地方の業務に携わり、その後福島県沿岸部の業務に関わったことがあります。本書を読むと当時の様子が生々しく思い出されるようでした。

 

 被災地では住宅地だけでなく、地域全体が被災し、市役所や町役場、そして職員も多大な被害を受けています。また東北地方の沿岸地域と言っても津波の被害状況はは地域によって異なっており一律ではありません。

 

 自宅が流され、家族や知人を失っただけではありません。コミュニティーや地域産業社会の喪失に至る地域の成立基盤も根こそぎ失われたのです。

 

 地域社会は復興する必要がありますが、問われるべきは復興の内実です。表面的に美しい町をつくるのではなく、人々が本当に住みやすい街を作る必要があります。何がいいのか地域によって要件は違うでしょう。でも個々の地域に根差した要素を加味してこそ本当の意味での地域の復興があります。決してゼネコンが儲けるためだけの似非復興事業であってはならないと思います。

 

 どこでどんな災害が起こるかわかりません。本書を読みながら、自分の町ならどうか考える機会にするのもいいかと思いました。