変わらぬものはあるか 山折哲雄氏『仏教とは何か』

 

 日本の伝統宗教の代表格と言えば間違いなく仏教でしょう。仏教と言うと、インドから流伝した宗教という印象が強いですね。でも日本仏教は、インド仏教にはない要素が相当に付加・変容されています。そんな仏教の源流と日本化の様子を分かりやすく、興味深く説いた一冊があります。

 

山折哲雄氏『仏教とは何か』

 

山折哲雄氏『仏教とは何か ブッダ誕生から現代宗教まで』中公新書

 

 筆者の山折哲雄氏は宗教学や思想史を専攻し、東北大学国立歴史民俗博物館国際日本文化研究センター名誉教授などを歴任された方です。宗教や思想に関して幅広い著作をのこされています。

 

 本書は仏教について書かれた本ですが、単にブッダの思想にとどまりません。一章 仏陀の人生、二章 ブッダと現代、三章 仏教思想のキーワード、四章 日本仏教の個性、五章 民俗仏教の背景、六章 現代との接点で構成されています。古代から現代への展開、日本での土着化など、変容と土着化に主眼を置いています。

 

 仏教というとブッダの思想のことと思われている方も多いですが、実態は単純ではありません。日本では仏教と言うと、死者の儀礼(葬儀)と密接な関係があると思われています。でもこれは極めて日本的な現象で、他地域ではあまりない特色です。葬儀に関して、伝統的な中国世界では道教が、朝鮮では儒教が担い、僧侶が葬儀に関わることはありませんでした。ブッダは人の生き方の哲学として教えを説いたのであり、死後のことに対してはあまり説くところがありません。『大般涅槃経』によると、ブッダは弟子たちに遺骨の供養に関わるなと言っているのに、遺骨は分配され、塔が建立されて、仏舎利信仰が生じます。ブッダ没後からすぐ、本人の意思とは違う方向に進んでいるのです。

 

 日本に伝来した仏教は日本の祖霊観と重なり、先祖信仰、墓信仰、山岳仏教などに展開します。インドを起源とする宗教を基盤にしながらも、その上に付加され、変容を遂げた様相を示しています。

 

 仏教思想の源流と変容を考える上でも興味深い一冊です。