釈迦の教えと夢実現 苫米地英人氏著『夢がかなう脳!』

 人にはいろいろな生き方がありますね。自分だけが儲かればいいのだと人を騙すのも厭わない人、自分自身楽しみながら社会貢献している人もあります。それぞれ考え方次第ではありますが、どうせ生きるなら高い目標をもって生きたいですね

 

苫米地英人氏著『夢がかなう脳!』


「悟りの力」で能力を全開にする究極メソッド』(PHP 2014年)

 

 ある種驚きの書でした。どうやって夢を叶えるか、類書は数多くありますが、「釈迦の悟り」という観点から説いた本ははじめてでした。「悟り」と夢はどうつながるのでしょうか。5つの論点から読んでみました。

 

1)悟りの力とは

 仏典で釈迦の教えと語られているものは、実は仏滅後につけくわえられたものが大半なのです。最古の経典群と言われる「阿含経」でさえ、釈迦死後相当経ってから成立したもので、釈迦直説とは言いがたいものです。著者は仏典から余分な皮をはぎとると、仏陀の教えとして最後に残るモノは「縁起説」だと言います。

 

 縁起とは全てが縁によって存在するとの考え方です。仮に存在するように見えるだけで、モノには絶対的な本質や、本当の核だとかいうものはないということです。つまり不滅のモノが輪廻転生などというものはないということです。過去の業(カルマ)によって次の生が決まるなどというものはありえないことになります。低い身分の人は前世の悪い業のせいだとする考え方は今のインドでも生きているようですが、縁起説はこれと対立するものです。実は釈迦の教えとは、古代インドのバラモン階級や支配層にとって都合の悪い危険な思想だったのです。その釈迦の悟りの根本はまさに「縁起説」にあったのです。

 

2)悟りの力を手に入れるには

 釈迦の悟りの立場からすると、今生きていることが一番重要で、死後どうなるかなどと考えるのは全く意味のないことです。日本の仏教は「葬式仏教」と呼ばれます。日本での死生観に根ざすものではありますが、釈迦の教えとは違うものだという認識は必要でしょう。またテレビやマスコミが宣伝する情報も、人を都合のいい方向に誘導するための仮想現実だと認識し、悟りに近づく方法もあるように思えます。

 

3)「空」とは

 縁起と関連して「空」という考え方があります。縁起とは全ては関係性により存在しているだけで、絶対的な本質などはないという考え方でした。一見あるように見えるけれど、実際には確たる本質はないということを示すのが「空」という概念なのです。生者がこの世界をどういう風に捉えるべきか、生きるべきかを示すのが釈迦の思想の根幹なのです。

 

4)抽象度とは何か

 人生の目標設定でも抽象度が高いことが求められますが、抽象度が高いとは視点の高さのことを言います。自己実現を単に自分の煩悩達成と考えてはいけません。自分の金銭的利益だけではなく、真に人の幸福を目指すような高い視点での夢が必要なのです。学歴や民族、国籍などで人を差別する人も、物事の本質を理解しない極めて抽象度の低い人と言えるでしょう。

 

5)悟りの力で究極のゴールを得るとは

 世の中で生き生きとしている人には自分のゴール達成を目指して活発に動いている人が多いです。いつまでも溌剌としていたければ、ゴールを達成しても、さらに次の高いゴールを目指すことが必要です。たとえ「空」の概念を理解したとしても煩悩がなくなることはありません。煩悩は煩悩としても、人生のゴール設定と、いかに自分が社会から必要とされているかという認識が重要となるのです。

 

(感想)

 この本はある意味衝撃的でした。釈迦の根本思想から夢実現を説くという刺激的内容でしたね。それに釈迦の教えが古代インド社会においてどれだけ先鋭的な思想だったかという認識もありませんでした。これまで説かれていない釈迦像で、まるで釈迦は革命家のようですね。イエス・キリストガンジーキング牧師と重なって見えるようでした。「縁起」や「空」は仏教の根本概念ですが、なかなか理解しがたい概念の代表でした。それをこれだけ分かりやすく解説されているのは感動的です。釈迦の理想に照らして自分の夢を見つめ直したいと思いました。