(ブックレビュー) 瀬川拓郎氏著『アイヌ学入門』

 日本というと「単一民族」だという幻想があります。現在、韓国・朝鮮や中国などに系譜をもつ人々も存在する一方、日本の領域には古来、琉球アイヌなど違う文化の民族が存在するのは自明のことです。そんな日本の多様性を考えるのも重要ですね。

  

(ブックレビュー)

瀬川拓郎氏著『アイヌ学入門』講談社現代新書 2015年

 

 本書は北海道在住の考古学者でアイヌ研究者である著者が、歴史的な観点からアイヌの文化について語られたものです。いろいろな観点から述べられていますが、大きく3つの論点で読み込んでみました。

 

 

1)アイヌとはどういう存在か

 アイヌ縄文人の特質をよく残すと言われております。でもアイヌの文化は歴史的に変遷しています。

 

 縄文人は基本的に竪穴式住居に住んでいました。竪穴住居は地表面を垂直に掘り下げ、底面を平坦にし、炉・竈・柱穴・周溝を設け、その上に屋根をおおった住居形式です。そして土器と石器を使用していました。

 

 対して近世のアイヌ人は掘立柱の平地住居に住み、鉄鍋と漆器碗、鉄の刃物を利用しており、縄文とは生活様式の違いもあります。しかし狩猟採集を基本に、自然に感謝し、神への祈りを基本とする精神文化は縄文文化の系譜を引くと言われています。

 

 

2)アイヌ語と日本語

 アイヌ語は東アジアの中の孤立語のひとつです。周辺地域で親戚関係にある言語が発見されておらず、日本語とも深いレベルで系譜が違うようです。日本語と語順は同じだが、日本語は接尾辞が発達しているのに、アイヌ語は接頭辞が基本になるという差があります。語順が一緒なのに、接尾辞が優勢でないという不思議な違いがあるのも特徴です。

 

 東北地方では川を意味する「ナイ」と「ベツ」地名があるのは有名です。この違いには諸説ありますが、歴史的変遷を意味するものとして興味深いです。

 

 

3)アイヌと交易

 意外かもしれませんが、アイヌは交易が盛んな民族でもありました。北海道内の中世のアイヌ墓からは、日本式の鎧兜や中国製の武具が出土する例があります。これがどのように使われたのかは不明ですが、それだけ周辺地域との交易が盛んだった証でしょう。またサハリンの先住民とも交易を行い、極東アジア地域を中心に、外との関係をも強い多面性のある集団だったようです。

 

 

4)アイヌの呪術

 アイヌは死の汚れを嫌う特徴もあるようです。縄文文化は集落の内側に墓域があったり、集落内の貝塚に死者が埋葬されることもありました。いわば死者と生者が並列的に存在する世界でした。対してアイヌは死者のケガレを恐れ、ケガレを祓う儀式が発達しているとのこと。それで和人との接触の中で、陰陽道の考え方が取り入れられた可能性を指摘しています。

 

 

 

(感想)

 アイヌとはまだまだ謎の多い部分があります。以前に北海道に行った時に驚いたことがあります。本州よりもはるかに寒い地域であるのに、博物館で復元されているアイヌの人たち

の住居が極めて簡素なのです。ほとんど掘っ立て小屋に近く、これで寒さをどうしのぐのか不思議に思いました。それだけ寒さに強かったのかもしれませんが、寒さをどう感じているのかいないのか興味があるところですね。