これからの平和のために 吉田裕氏『日本軍兵士』

 私は世界平和を願っています。どこかで戦争がある限り、いつどこに飛び火するかも知れません。今はともかく、いつか自分の安全も脅かされるのではという恐怖があります。また日本国内でも、政府の国民生活実態無視の政策のおかげで困窮者が続出しています。自分もそうなっていたかもしれない、自分ひとりだけ永遠に安心・安全であると考えるのは限界があると感じる今日この頃です。

 

 平和を願う人は私だけではなく、数多くの人が願っていると思います。それで今日は戦争の実態を知る一冊を紹介したいと思います。

 

吉田裕氏著『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』中公新書

 

 吉田裕氏は一橋大学名誉教授で日本近現代軍事史。政治を専門にされた研究者で、戦争や社会の実態に関する研究をされてきました。日本兵に関しては、勇敢、英霊などと美化して語られがちですが、兵士が送られた戦場の実際がどうであったか、本書では鬼気迫る迫力で描きます。

 

 内容は大きく4章で構成されています。

序章 アジア・太平洋戦争の長期化

 1943年のガダルカナル島撤退、44年のサイパン島陥落以降、急速に戦死者が増えます。全体の戦死者310万人のうち、44年以降の戦死者が281万人に及ぶという数字をあげています。長期化で一層、兵士たちが追い込まれた様相がうかがえます。

 

第1章 死にゆく兵士たち

 戦死というと、戦闘死かと思うでしょう。でもそれよりもはるかに多かったのが、餓死者や病死者、自殺者です。これは無闇な戦局の拡大、米軍の反撃により、兵站が追いつかなくなったことが大きな要因です。銃火器の不足、食料不足、戦況の先行き不安、医薬品の不足などで病気や怪我の治療も受けられず亡くなった悲惨な実態を明らかにしています。

 

第2章 身体からみた戦争

 戦地は医療環境の不備と劣悪な衛生状況という悲惨な状況でした。部隊内での結核の蔓延、虫歯の深刻化、精神的重圧による精神病の深刻化、軍服、軍靴の品質低下など。「大和魂」だけでは乗り切れない、戦争長期化と軍部の無策が兵士の身体に与えた悪影響を指摘しています。

 

第3章 無残な死、その歴史的背景

 軍部による人命軽視、無理な作戦至上主義、その上私的制裁の横行など、日本軍にひそむ構造的な問題にも根深いものがあったことを指摘しています。

 

(感想)

 いろいろな意味で必読の書だと思います。最近、美化されることの多い戦死ですが、最後は軍隊内での覚醒剤使用と中毒による凄惨な状況も描かれています。飛行兵などには恐怖を和らげるために服用されていたとのこと。近年の礼賛とは裏腹です。悲惨な死が美化され、戦争で死ぬことが正しいというような風潮が広がることは危ないと思います。戦争を煽る側は自分は安全な場所にいて、庶民を危地におくるのが通例ですから。

 

 これからの若い人のためにいかに平和な国にするか、二度と「英霊」をつくらないことが求められているように思われます。

 

吉田裕氏『日本軍兵士』中公新書